遺伝性疾患と繁殖

動物福祉, 繁殖について

※この記事は1999年に運営していた個人サイトDOG DOG GOに書いたものです

ご家庭で愛犬同士の繁殖を望まれる方の殆どは、繁殖のために犬を迎えたのではなく、犬と暮らすうち「かわいい愛犬の子供が見たい。この子の血を残したい」という理由で繁殖を考えるようになったのではないかと思います。その気持ちはよくわかります。

しかし、愛犬同士の子どもがみたいという理由で繁殖をしたために、遺伝性の疾患・先天性の疾患(子犬の頃にはわからないものも多くあります)に苦しむ犬や、遺棄される犬を生み出しているのも事実です。

悪質なブリーダーの事件がニュースで取り沙汰され、無責任なブリーダーやバックヤードブリーダーは後を絶たず、「ブリーダー」はすっかりイメージの悪い響きになりました。

しかし本来のブリーダーに要求されることは、一般の人が到底手に入れられない正確な情報と知識を、譲渡した子犬を通して提供する行為であり、繁殖においてはレアカラーの作出や極小犬の作出に重きをおくのではなく、犬種特有の遺伝性疾患に対して最大限の努力と配慮がなされていることです。

動物に対する規制が曖昧で不整備きわまりない日本でよいブリーダーを探すのは確かに大変です。人柄は信頼できるブリーダーとわかっていても、繁殖に際してじゅうぶんなことをしているかどうか、それもまた別の話です。

ブリーダーのところから迎えるよりも、愛犬同士を夫婦にして愛情たっぷりの家庭繁殖のほうがいいと思う方も多いでしょう。しかし愛情や責任は犬と暮らす以上、大前提で当たり前のことです。繁殖の理由にはなりません。

繁殖という行為は、それらの気持ちとは全く別に、深く広い知識と重大な責務をもってのぞむべきものです。繁殖の話になるとよく出てくる、”スタンダード”という言葉や”犬質”という言葉に嫌悪感を感じる飼い主さんも多いです。

スタンダード・犬質という言葉は犬を差別するために使っているのではありません。雑種犬がよい例です。素晴らしく賢く素晴らしく可愛い雑種が世の中にどれだけたくさんいることか。雑種にはスタンダードはありません。つまり、スタンダードだから犬として優れているというのではありません。

それと同時に、たとえ血統書があろうと、チャンピオン直子であろうと、スタンダードにそぐっているかどうかはまったく別の話であるということをご理解いただければと思います。

以前、遺伝性疾患を理由に、愛犬同士の安易な繁殖は避けるべきという意見を出した際、

わたしは体に障害があります。あなたは障害を持つわたしに出産をするべきではないと言うのですか

と言われたことがあります。

どうか障害を持つ方を差別しての発言ではないことだけはご理解下さい。人間は自分自身の考えや経済力、環境で選択をできますが、犬にはできません。

「出産は”自然”なことだと思う。産ませないのは(避妊去勢)は人のエゴ」という方もいらっしゃいます。確かに避妊去勢という手術は自然なことではありません。メリットもあればデメリットもあります。しかし、出産においても、自然界ではどの犬にも出産の権利があるのではありません。”自然”か”不自然”かという話になってしまうのであれば、都会のマンションで犬と暮らすことだって不自然です。本来なら極寒の地で生きる犬が日本で暮らすことも不自然です。

愛犬が本当に望んでいるのは最愛の飼い主である家族との密度の濃い時間・犬らしさへの理解と尊重、犬にとっては本来ストレスとなるはずのルールであっても人間との共生に必要なものを優しく根気よく教える(というよりはお願いをする)ための深い絆です。

繁殖という行動を取る前に、もう一度愛犬と家族との関係を見直してみませんか?愛犬の子供を望む前に、目の前の愛犬との関係を見直してみませんか?

目先の可愛らしさしか取りあげないマスメディア、営利目的のブリーダーやペットショップ、安易な家庭繁殖の結果、そのしわ寄せは犬たちにすべてふりかかってきます。

犬は安産と言いますが、チワワのような小さな犬はその限りではありません。帝王切開になる可能性もあります。最愛の我が子をお産で失うことにもなるかもしれません。異常分娩のときに適切で素早い処置をとることができますか?生まれてきた子犬が仮死産、死産だったら?もしもの時に誰の責任にもできません。全ては飼い主の責任です。死産があっても、奇形があっても、母体が亡くなっても、”運命”とか、”獣医のせい”だと誤魔化すことはできます。しかし全ては「仔犬が見たい」と思った自分の責任です。

犬種によって様々な遺伝性疾患がありますが、ほとんどの場合、その遺伝子の所在や遺伝様式は遺伝情報の解明がなされていない現在では間違いなく判断することは不可能なことで、”絶対に大丈夫な”系統や血統というものはありません。命ある生きものなんです。飼い主もそのことは理解するべきですが、ブリーダーに対し”絶対に遺伝性疾患に罹らない犬を”と要求することもままあると聞きます。そんな無茶な要求に、口先だけで愛想よく「大丈夫ですよ」とか「うちの血統には出ません」などと言うブリーダーこそ、信頼できません。

よいブリーダーは可能な限りの遺伝性疾患の検査を行い(動物病院で行う健康診断ではわかりません)、それを持っていないという犬だけをブリーディングに用い、可能な限り証明書や診断書等の書類を提示してくれるはずです。そして、”絶対に遺伝性疾患に罹らない犬を”という要求がどれだけ無茶な話なのかも説明してくれるでしょう。

いろいろとおもうところを書きましたが、これまでに繁殖された方をとやかくいうものでもありませんし、今愛犬のお腹に赤ちゃんがいる場合、勿論それは無事な出産と健康な赤ちゃんの誕生をお祈りする気持ちに変わりありません。

最後に、少々古い資料ではありますが、チワワに多い遺伝性疾患のリストを記載します。流行犬種として繁殖が乱れた後、現在ではさらに疾患のリストは増えているのではないかと考えています。

  • 水頭症(劣性遺伝子)
  • 肺動脈口狭窄
  • 僧帽弁欠損
  • A型血友病
  • 肩関節脱臼
  • 膝蓋骨脱臼
  • 気管虚脱
  • 歯突起形成不全
  • 乾性角膜炎
  • 続発性緑内障
  • 角膜浮腫
  • 虹彩萎縮
  • 口蓋裂
  • 低血糖症

<以上、犬種と疾病 文永堂出版 1989>

  • 水頭症
  • 口蓋裂
  • 気管虚脱
  • 角膜ジストロフィー
  • 肩関節脱臼
  • A型血友病
  • 緑内障
  • 低血糖症
  • 軸椎形成不全
  • 甲状腺機能低下症
  • 虹彩萎縮
  • 僧帽弁異常
  • 神経セロイドリポフスチン症
  • 解離性骨軟骨炎
  • 骨軟骨症
  • 膝蓋骨脱臼
  • 進行性網膜萎縮
  • 肺動脈狭窄

<以上、CANINE CONSUMER REPORT 動物の権利のための獣医師の会1994発行 Copyright 1996〉

殺処分される犬が年間13万頭にものぼるなか、新たな繁殖が必要でしょうか?

売れ残る犬がいる状態は、正常なのでしょうか?

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